第5回 書寫山 全国短歌大会

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佐佐木 幸綱 選

選者紹介
 佐佐木 幸綱 (ささき ゆきつな)

昭和十三年東京都生まれ。昭和四十六年、第一歌集 『 群黎 』 により第十五回現代歌人協会賞受賞。平成十二年 『 ア ニマ 』 で第五十回芸術選奨・文部大臣賞。平成十六年 『 はじめての雪 』 で第二十七回現代短歌大賞。第64回 「 読売 文学賞 」 受賞。 「 心の花 」 編集長。現代歌人協会理事長。早稲田大学名誉教授。 「 朝日歌壇 」 選者。著書に 『 万葉 集の<われ> 』 、歌集に 『 ムーンウォーク 』 などがある。




花嫁のベンツが山道のぼりくる彼岸花咲く吾が村さして
 秋晴れの日の曲がりくねった山道を登ってくる一台の大型ベンツ。そのベンツには
花嫁が乗っています。
 寅さんの映画の一場面のような、うきうきした雰囲気とあっけらかんとした明るさ、
そして何より、これからはじまる人間ドラマを予感させる空気が読める一首です。
 じっさいは、過疎の山村に久々に来る花嫁なのかもしれません。しかしそんな現実はうたわず、今という時間だけをうたって、佳作をものにしました。





十首選
人里に有刺鉄線めぐらせて来るな来るなと言ってる雌鹿
妻逝かせスキンヘッドにした男あたまも顔もざばざば洗う
あをぞらが遠くに見えて地上からすべてが離れてゆくやうな秋
一斗二升の餅つく準備ととのえり一服の茶にのどをうるおす
アルコール依存症に面窶れたる弟がひとりふるさとに在る
とりどりの護符並べある神殿の奥処に巫女がパソコンを打つ
一村を被ひつくせる朝霧にランドセルの児等すひ込まれゆく
花びらの埋めつくせる水の面に目だけ出しいるかばの子どもは
原発の湾抱くなだりにはつはつと灯ともすごとく蜜柑の熱るる
パソコンに吸い込まれゆく吾を一瞬人間に戻す小さきくしゃみ


馬場 あき子 選 佐佐木 幸綱 選 永田 和宏 選 小畑 庸子 選



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