第5回 書寫山 全国短歌大会

各賞受賞作品のご紹介
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小畑 庸子 選

選者紹介
 小畑 庸子 (おぱた ようこ)

昭和八年兵庫県生まれ。昭和五十八年 「 水甕 」 に入会。高嶋健一に師事。 「 水甕 」 選者。 「 ひめぢ水甕 」 主宰。歌集 『 双耳 』 『 木の扉 』 『 孤舟 』 『 天より湧きて 』 他がある。平成十八年 『 孤舟 』 で第二十九回姫路市芸術文化賞芸術賞受賞。平成二十二年兵庫県ともしびの賞受賞。




瞳孔をひらかれしまま戻りきぬ勝負谷橋ゆらゆら越えて
 眼科医院で治療を受けてのちの帰途であろう。用いられた薬品によって、かなりの時間瞳孔はひらいたままになっていると聞いたことがある。「勝負谷橋」の固有名詞はこの一首のなかでは生きていると言えよう。瞳孔のひらいたままの眼で、作者は何かに挑むように気強く、しかしゆらゆらと身を揺らせながらも橋を越えてゆく。橋を渡り終えて、瞳孔がもとに戻ったとき、その眼は今まで見えなかった新しい何かを見たに違いない。





十首選
円周率のやうに連なり花筏村のタベの土橋をくぐる
酒食らひすぎて逝くとふ遠つ祖の子の子の子のわれ酒買ひにゆく
丁寧に印鑑を押す男子学生その指先の五秒美し
久々に会えたる友の話題には蘇我入鹿がやはり出てくる
コンビニに牛乳石鹸置かれをり 頭も洗ひし少年の夏
電車内三十一文字を練るうちについ口ずさみ衆目刺さる
白桃の匂ふおぼろ夜猪出でてうり坊に実を落としやるとふ
かうべよりゆつたり背を丸くして白鷺一羽流れを覗く
母の日に祝われなかった母親と母になれなかった娘がぶつかる
三人娘のかわるがわるに見舞い呉るみんないい子でどの娘も忙し


馬場 あき子 選 佐佐木 幸綱 選 永田 和宏 選 小畑 庸子 選



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