第5回 書寫山 全国短歌大会

各賞受賞作品のご紹介
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永田 和宏 選

選者紹介
 永田 和宏 (ながた かずひろ)

昭和二十二年滋賀県生まれ。昭和四十二年 「 塔 」 入会。現在編集責任者。平成十年 『 饗庭 』 で第三回若山牧水賞、 第五十回読売文学賞受賞。平成十六年 『 風位 』 で第三十八回迢空賞、第五十四回芸術選奨文部科学大臣賞。京都大 学名誉教授。京都産業大学総合生命科学部学部長。 「 朝日歌壇 」 選者。歌集 『 たとへば君 』 『 もうすぐ夏至だ 』 他 がある。




夢に見るあなたはいつもみどり児でそれから先は思い出せない
 普通に解釈すれば、赤ん妨であった時期の姿だけが強く残り、その後の子育ての
時期のことは忙しさにとり紛れて覚えていないというほどの意味になろう。しかし、この
一首にはどこかもう少し切迫した暗さを感じる。ひょっとして亡くなったお子さんを思っている歌ではないだろうか。「それから先は思い出せない」は、もともと無かった生なのだと私は読んだ。まったく間違った読みかもしれないことを覚悟で選んだが、どこかでそんな悲しみを感じさせる歌である。





十首選
鳥が二羽朝の窓辺にゐるやうなシャンプーのノズルリンスのノズル
三人娘のかわるがわるに見舞い呉るみんないい子でどの娘も忙し
あをぞらが遠くに見えて地上からすべてが離れてゆくやうな秋
円周率のやうに連なり花筏村のタベの土橋をくぐる
母の日に祝われなかった母親と母になれなかった娘がぶつかる
何も彼もあなたのことを知つてゐるそんな眼をして猫が見てゐる
人身事故うごかぬ電車にじれる客ひとりの命語られぬまま
パンコーヒー・サラダにシチューレストランに片仮名食べて平仮名話す
一枚のトーストちぎる遅き朝且つは自由に且つは孤独に
右端の白き風車が海よりの四月の風にまず回り初む


馬場 あき子 選 佐佐木 幸綱 選 永田 和宏 選 小畑 庸子 選



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